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『デジタルは人間を奪うのか』小川和也著(講談社現代新書)
 この本に紹介されているスティーブ・ジョブズの話、コネクティング・ドッツ(点と点を結ぶ)、が印象的だ。ジョブズはある地方大学に入学したものの、意味を見いだせず、ぶらぶらしていた。ふとある講義を覗いてみた。それはカリグラフィーのコースだった。カリグラフィーとは、日本でいえば書道。ギリシャ・ローマ時代の昔から、西欧世界ではいかに美しい書体で文字を残すか、膨大な伝統と歴史の蓄積があり、それは一種の文化、芸術となっていた。興味を持ったジョブズは、もぐりで聴講することにした。
 それから何年もたってから、ジョブズは、機械オタクだったもう一人のスティーブ(・ウオズニアック)とともにアップルを立ち上げることになる。彼が徹底的にこだわったことがあった。フォントの美しさ。均等な文字の配置。滑らかな線。彼は視覚的な効果がどれほど人間の認識に影響を与えるかを思い出していたのだ。
 この瞬間、点と点がつながった。人生において、ある点とある点がどのようにつながれることになるのか。事前にそれを見通すことは決してできない。後になってからはじめて、それが意外な線で結ばれることがわかる。
 これは彼がスタンフォード大学で卒業生に贈った言葉。デジタル社会を作った張本人といってもいいジョブスのスピーチは、はからずもデジタルが決して人間から奪えないものの本質をくっきりと描き出している。

著:福岡伸一 / 生物学者 --- 孫の力 第21号 2015年 01月号 「終日読書マラソン7」より

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